筑波サーキットで年2回開催される、鉄フレームの祭典「テイストオブツクバ」(以下TOT)。 本プロジェクトは、この大会の最高峰カテゴリー「HERCULES(ハーキュリーズ)クラス」で活躍するオートボーイJ's 新庄雅浩選手の『圧倒的なコースレコードを樹立したい』という思いをHYPERPROで叶えるためスタートしました。 Part1(2018年)ではリアショックの仕様変更をメインに行い、PART2(当プロジェクト)では新しく開発している「リンク式ツインショック」についてレポートしていきます。


PART1はこちら




プロローグ



アクティブではこれまで2018年に行った特別仕様のサスペンションセッティングを皮切りに、DP-Sサスペンション、スイングアーム(DAEG用)の導入など、サポートを通してT.O.Tに参加する新庄選手を応援してきました。

前回、DAEG用のスイングアームを導入したのは、サスペンションの取付位置を変更させてアクスル荷重を変えるのが狙いでしたが、結果としては理想的なフィーリングを得ることはできませんでした。そこで、これらにさらにフィットする新しいサスペンションが必要という答えに。
そして初めての試みとなる「リンク式ツインショック」の開発に着手しました。0.1秒でも速く走るための挑戦、という強い気持ちで今回のプロジェクトに望みます。

取付位置を変更することにより アクスル荷重を変えることができる。



リンク式ツインショックとは



一般的なツインショックは厳密に言うと、傾きによってアクスル荷重はプログレッシブ(変化する)となります。 しかし、荷重特性を変更させようと取付位置を変更したとしても、理論値としてはベターであるもののベストではありませんでした。
レースのように極端な環境で理想の車体姿勢に整えるにはどうしても限界があるため、より細かな荷重特性のセッティング域を獲得しようというのが今回の狙いです。
 
リアショックの角度によって、アクスル荷重がサスペンションに加える力は変化。 また、スイングアームの沈み込みによるサスペンションの角度変化もまた、アクスル荷重に対する荷重特性は変化する。

近年の車両では、ツインショックよりもモノショックが主流として採用されています。モノショックはツインショックには無いリンク機構を備えています。このリンク機構はアクスル荷重を分散する役割を持ち、効率よく荷重特性を得られるため今まで2本で支えていたリアショックを1本に集約してストローク量を押さえつつもツインショックと同等以上の荷重特性を発揮します。

このモノショックの機構をツインショックにも取り入れたのが、本プロジェクトの「リンク式ツインショック」です。
このリンク機構がモノショックのようにタイヤから加わるアクスル荷重を分散させ、ツインショックに加わる荷重をコントロールします。その結果、タイヤの特性に合わせた微調整ができるため、エンジンから発生する推進力を、サスペンションを介してロスなくタイヤのグリップ力に変換することができます。


  通常のツインショック。スイングアームによるサスペンションの傾きで 多少のプログレッシブ効果がある。
  リアショックをリンク式にすることにより、サスペンションのストロー クに対するアクスル荷重の特性を適正化する。
(複数線が表すように多様な特性を持たせることができる)

チャレンジする意義とは


リンクを導入するとその調整域の広さから最適なセッティングにたどり着くまでの選択肢が広く、理論の理解やテスト時間、経験が必要です。また、部品点数が多いためコストもかかりますが速さを追究するために必要なアイテムだと結論付けました。


一般ユーザー向けの製品がほとんどのアクティブとしては即市販化に結びつくものではありませんが、ここで得られるデータやノウハウを今後の製品開発、性能向上にフィードバックできる機会が必ずあります。新しい挑戦には課題がつきものですが創意と工夫で乗り越え、経験として蓄積していく。その姿勢を大切に、ワクワクしながら新庄選手を精一杯サポートしていきます!




リンク式ツインショックの開発について




リンク式ツインショックにおいて、性能・性質に最も関わるのがリンク(三角形)の部分です。
アクティブのテクニカルアドバイザー光島稔氏が、ショック周りのタイトなスペースでも収まるコンパクトさと強度バランスを考えリンクの形状を熟考。



リンクを用いてロッドやリアショックの角度が変わる(力の配分が変わる)事で リアショックとは別に、荷重を増減させることができる。


この三角形の角度を0.1mmでも変更するとリンク比が変わり、車体姿勢・スプリングレート・プリロード・使用ストローク量などが変化します。そのためストローク量を5mmごとに区切り、タイヤへの荷重のかかり方を算出しました。
ここから最適なリンクロッド長とショック長を割り出し、新庄選手のライディングスタイルに合わせたアクスル荷重を持たせたのが今回製作した「P-2リンク」です。



最適なアクスル荷重とは、エンジンから発生した推進力がタイヤに伝わる際、タイヤを空転させることなく、サスペンションを動かしながらグリップさせることができる荷重。荷重が大きすぎる、少なすぎる場合はタイヤが空転してしまう。

タイヤと地面の間の摩擦力が足りない
過不足の無い摩擦力でエンジンパワーを無駄なく駆動力に変える
サスペンションが地面を押す力が 角度が付く事で後ろに逃げてしまう


リンクをつけるとリアショック(スプリングレート)を変えなくてもアクスル荷重を変更できます。この特性を利用してスプリングレートを落としつつ、今回はアクスル荷重を増やす仕様でリンクを製作しました。
リンクキットにはトルクロッドの装着が不可欠です。コンパクトにできるよう、現在装着しているアクティブ製『プレスフォーミングアーム』に追加工を施します。


アルミ製スイングアームを追加工する上で一番難しいのは熱による歪みですが、国内トップクラスの技術者の指導のもと歪みを修正しながら加工完了。
これでリアショック/リンクキット/スイングアームが完成。いよいよ車両へのインストールとなりますが、ここからは新庄選手のチーム母体である、オートボーイJ'sの鴻巣代表にバトンタッチ。


パーツが完成しても車両に装着できるか、効果が出せるかは調整次第です。まず、近づきすぎたり接触してしまう部品の対策を行います。そしてリンクのオフセットによる力のかかり具合を均一にするために、左右のリアショックを連結するパイプを追加しました。これでようやく走行テストができる状態まで準備が整いました。




第一回 テスト走行



2022年3月25日、つくばサーキットで行われたオートボーイJ'sのテスト走行にHYPERPRO開発責任者の宇田も参加。リンク式ツインショックの感触をつかむこと、その結果から今後の方向性を詰めることが目的です。



このリンク機構を実際にサーキットでテストするのはこれが初めてでしたが、走行は無事に終了。リニアレートスプリングを採用しながらも、リンクでHYPERPROのコンスタントライジングレート(不等ピッチ)スプリングのような特性を出しています。そのため、リニアレートでは調整が難しい低・中負荷でのショックの動きをコントロールでき、サーキット走行において新しい可能性を感じる結果となりました。ただし、通常のツインショックとは仕組みも乗り味も変わるため、ライダーがこのシステムに対応するためには時間も技術も必要です。レコ-ドタイムまで残り1.5秒。ライダーの身体づくりやリンクシステムの改良を施しながらT.O.Tに向けて調整していきます。


 




TASTE OF TSUKUBA SATSUKI STAGE




2022年5月15日、テイストオブツクバ SATSUKI STAGE / HERCULESクラスにて、新庄選手は決勝4位



13日(金)/特別スポーツ走行枠(テスト走行)


13日の特別スポーツ走行は雨によりほとんどのチームが走行をキャンセル。新庄選手も同様にテスト走行を諦め、この時間で「リンク式ツインショック」の感触についての最終ミーティングをもった。
今回のリンク形状はスプリングレートを上げなくてもリアのアクスル荷重を上げることができることからプリロードを弱めることに。タイヤを含めて翌日の特別スポーツ走行枠でテストし、決勝に向けた仕様を詰めていく。


14日(土)/特別スポーツ走行枠(テスト走行)


ハーフウエットの難しい路面状態で臨んだ特別スポーツ走行枠。
新庄選手は走行時間20分と限られた中でトップタイムを叩き出しました。3月のテスト走行からスプリングレートを変更し、またリンクに対する新庄選手の適応力も格段に上がっており、リンクの持つレートコントロールの特性を引き出していたこともトップタイムが出せた要因と考えられます。


15日(日)/予選・決勝


2ndグリッドで迎えた決勝レースはスタートからパワーのあるH2Rとトップ争いを繰り広げました。その後赤旗中断、再スタートとなる中、新庄選手のマシンにエンジントラブルが発生。苦しみながらも最後までプッシュを続け、4位でチェッカーとなりました。
サスペンションに関しては、コーナーの進入で良くストロークしており、しっかりと路面をキャッチしていたのが印象的でした。


悔いが残る結果となりましたが、テスト走行でトップタイムが出せたことなどリンク式ショックの手ごたえは十分。新庄選手の乗り方・テクニックを最大限に活かすためにコーナーでの立ち上がり強化等、次回の11月のテイストオブツクバでの『圧倒的なコースレコード樹立』達成にむけて引き続き尽力していきます。